「創業時にいくら借りられるのか?」
「創業時にいくら借りられるのか?」――これは、私がもっとも多く受ける質問のひとつです。
机の向こうで経営者が通帳を握りしめながら「できれば1000万円を借りたいんですが…」とつぶやく光景を、私は何度も見てきました。
しかし、融資の現実は甘くありません。実際に創業時に借りられる金額には“明確な壁”が存在します。
本記事では、20年以上の実務経験から導いた「借入金額のリアルな目安」と、「500万円・1000万円の壁を突破する具体策」をお伝えします。
本論
第1章:創業時に借りられる金額の平均と現実
実データから見る現実
日本政策金融公庫の「新規開業実態調査(2023年版)」によると、創業時の平均借入金額は約660万円。
ただし中央値は500万円前後で、1000万円を超えるケースは全体の15%未満です。
銀行員の感覚値
私の勤務している地方銀行・信用金庫でも、500万円前後が標準レンジです。
融資担当者が最初に思い描く「安全な融資額」は、自己資金+事業規模+経験値をもとに決まります。
👉 結論:初回の創業融資は、「自己資金の2〜3倍」が現実的な上限。
第2章:審査官が見ている「3つの壁」
① 自己資金の壁
公庫では「必要資金の1/10以上の自己資金」が条件。
しかし実務上は2割(20%)以上が安心ライン。
例)必要資金500万円 → 自己資金100万円以上が理想。
② 経験の壁
全くの未経験業種は、借入限度が3〜5割に抑えられる傾向。
逆に同業種での実務経験が5年以上ある場合、融資上限が2倍近くに伸びる。
③ 計画の壁
「数字の根拠」が甘い計画書は即NG。
銀行は「売上予測」より「支出と回収の整合性」を見ています。
第3章:自己資金別の借入目安シミュレーション
| 自己資金 | 借入目安額 | 想定合計資金 | 融資難易度 |
| 50万円 | 100〜150万円 | 約200万円 | ★★★★☆(高) |
| 100万円 | 200〜300万円 | 約400万円 | ★★★☆☆ |
| 200万円 | 400〜600万円 | 約800万円 | ★★☆☆☆ |
| 300万円 | 700〜1000万円 | 約1300万円 | ★☆☆☆☆(低) |
※自己資金の2〜3倍が目安。実績・職歴により変動。
第4章:実体験 ― 500万円の壁を越えた2人の事例
事例①:副業から本業化したITエンジニア(東京都・35歳)
副業で3年間アプリ開発を継続。月20万円の安定収入を記録。
創業計画書に「過去3年の売上推移+顧客リスト」を添付し、公庫から600万円融資を獲得。
👉 ポイント:「副業実績」を“売上証明”として提出。
事例②:飲食店を開業した元店長(埼玉県・42歳)
自己資金200万円+調理師資格+飲食業15年の経歴。
保証協会付き融資で900万円を調達。
保証協会面談では「同業経験と人脈」を重点的に評価されました。
👉 ポイント:経験と地域貢献性を具体的に伝える。
第5章:1000万円の壁を突破する5つの戦
① 計画書の「数字」を裏付ける
売上予測=「客単価×来店数×営業日数」など、算式を明示。
審査官に「この数字なら納得」と思わせる構成に。
② 「自己資金+親族支援」のハイブリッド化
親族やパートナーからの資金援助を贈与契約書+通帳履歴付きで提出。
見せ金ではなく“実資金”であることを証明する。
③ 副業実績を「事業継続力」として活用
副業期間中の売上推移・SNSフォロワー・リピート率などを「実績」として添付。
④ 税理士・創業支援機関を味方にする
商工会議所・信用保証協会・創業スクールの推薦は強力なプラス要素。
「第三者が関与している」=信頼性が増す。
⑤ 計画書の“人物欄”を練り込む
創業動機、強み、想いを定量化して記載。
数字だけでは伝わらない「人柄」こそが最終評価を左右します。
第6章:失敗談 ― 書類は通ったのに融資が下りなかったケース
2019年、学習塾を開業予定だった男性(39歳)。
書類は完璧、自己資金も200万円。しかし面談で「家族が反対していて…」と一言。
担当者は「意思の弱さ」を感じ、最終稟議で却下。
👉 創業融資は“熱意の論理性”が必要。
熱量が空回りせず、現実性を伴っているかが問われます。
第7章:保証協会・公庫・銀行の違いと使い分け
| 区分 | 特徴 | 融資限度 | 審査期間 | おすすめ層 |
| 日本政策金融公庫 | 創業融資に特化・自己資金1/10以上 | 約3000万円 | 2〜4週間 | 初回創業者 |
| 信用保証協会付き融資 | 地域密着・銀行経由 | 約2000万円 | 3〜6週間 | 中規模開業 |
| 銀行プロパー融資 | 実績重視・保証なし | 制限なし | 1〜2ヶ月 | 2期目以降 |
👉 創業時は公庫+保証協会の併用が最も現実的です。
第8章:創業後に資金ショートしないための「借入設計」
- 開業費用+運転資金6ヶ月分を必ず確保
- 利用目的別に融資を分ける(設備資金・運転資金)
- キャッシュフロー表を添付して「返済余力」を数値で説明
式:
毎月の返済額 = 借入額 ÷ 返済期間 ÷ 金利係数
例)600万円 ÷ 7年 ÷ 1.03 ≒ 月7.1万円
👉 返済余力の見える化は審査通過率を大きく上げます。
第9章:よくある誤解 ― 「公庫なら誰でも借りられる」
実際には公庫も審査をしています。
過去5年で私が見た公庫の不承認理由TOP3は以下の通り:
- 計画書の根拠が乏しい
- 自己資金の履歴が不自然
- 事業経験が不足
👉 公庫は「誰でも貸す機関」ではなく、「実現可能性を確認する機関」です。
第10章:数字だけでなく「人物ストーリー」で差をつける
創業融資は“人を見て貸す”世界です。
あなたの「過去の努力」「今の想い」「未来への責任感」が、数字以上に響きます。
現場の声
審査官A氏:「誠実にコツコツ自己資金を積んでいた人は、全員印象が良い」
審査官B氏:「書類より目の前の人の話し方を見ています」
👉 結論:融資は“信頼を見える化するプロセス”。
結論
創業時に借りられる金額の目安は、自己資金の2〜3倍。
500万円の壁を越えるには、根拠ある数字と実績が必要。
1000万円を突破するには、経験・信頼・第三者証明を組み合わせることが不可欠です。
私が現場で見てきた成功者の共通点は、「背伸びしない堅実な計画」と「誠実な資金づくり」。
数字は嘘をつきません。
そして、数字の裏にある“あなたの想い”を誠実に伝える人ほど、必ず融資は通ります。
創業資金の壁は、信頼で越えるもの――それが、銀行員として私が学んだ最も大きな真実です。


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