導入
「まだ法人化していないのに、融資を申し込んでも大丈夫ですか?」
実は、法人化していなくても融資を受けられるケースは多いのです。
ただし、“準備の質”が低いと門前払いされるのも事実。
この記事では、20年以上の現場経験から、個人事業主が融資を受けるための具体的な方法・審査の見られ方・法人化との違いを徹底的に解説します。
「今の自分でも融資が取れるのか?」 その答えを、ここで明確にしましょう。
本論
第1章:まず結論 ― 法人化前でも融資は可能
日本政策金融公庫のスタンス
日本政策金融公庫(JFC)は「開業前」でも融資を受けられる国内唯一の公的金融機関です。
制度名は「新創業融資制度」。
法人登記前・開業届提出前の段階でも、事業計画書と自己資金の確認ができれば申請可能です。
実務現場の感覚
私が勤務していた信用金庫でも、開業前の相談は多く、個人事業主としての実績や計画性があれば前向きに検討されます。
ただし、銀行は“形式よりも信用”を重視。
「法人か個人か」よりも「返済能力」と「覚悟」を見ています。
第2章:個人事業主が融資を受けるための最低条
① 自己資金の割合
公庫の基準は「必要資金の1/10以上」ですが、実務上は2〜3割が理想です。
つまり、開業資金600万円なら120〜180万円を自己資金で持っておくこと。
② 開業届・見積書・計画書
融資申請時に「開業届(控)」や「見積書」、「創業計画書」が求められます。
法人登記の代わりに、これらの書類が“本気度”の証拠になります。
③ 事業経験・資格
「なぜあなたがこの事業をやるのか?」を説明できる職務経歴が不可欠。
飲食店なら調理師免許、デザイン業なら制作実績――こうした背景情報が審査で最も響きます。
第3章:実体験 ― 法人化前に融資を通した3人の事例
事例①:ネイルサロン開業(東京都・女性・29歳)
開業届を提出し、公庫に創業計画書を添付。
自己資金は80万円、融資希望額200万円。
借入成功額:180万円。
→ 「美容専門学校卒+実務5年」が評価されました。
事例②:副業から独立したWeb制作業(大阪府・男性・35歳)
法人登記前に個人名義で売上を立てていた。
過去の振込履歴と見積書を提示し、400万円の公庫融資に成功。
事例③:飲食業(神奈川県・男性・40歳)
店舗契約前に見積書と物件資料を提出。
家族の支援を自己資金に組み込み、保証協会付きで600万円融資承認。
第4章:法人化と個人事業主 ― 銀行の見方の違い
| 観点 | 個人事業主 | 法人 |
| 信用評価 | 経営者本人の信用重視 | 決算書・法人格で評価 |
| 申込難易度 | 低い(公庫中心) | やや高い(保証協会・銀行) |
| 必要書類 | 開業届・計画書中心 | 登記簿謄本・定款・決算書 |
| メリット | 手続きが早い/柔軟 | 大型融資・節税効果あり |
| デメリット | 信用の限界あり | 維持費・手続きコスト増加 |
👉 結論:最初は個人事業主で資金調達 → 安定後に法人化が最も現実的。
第5章:融資を通すための“人物要素”をどう見せるか
銀行員が面談で重視するのは次の3点です:
- 誠実さ:資金計画が地に足ついているか
- 経験値:実務経験や顧客の有無
- 熱意+計画性:熱意があっても、数字で裏付けできるか
私の体験談
ある40代の男性が言いました。
「数字は妻が作ってくれたのでよく分かりません。」
結果は不承認。
一方で、数字に誤りがあっても「自分で全部作りました」と語った女性経営者は承認。
👉 “理解している”ことが最大の信頼材料。
第6章:法人化前の資金調達ルート4
| 種類 | 金融機関 | 融資上限目安 | 特徴 |
| 日本政策金融公庫 | 公的機関 | 約3,000万円 | 創業前でも可。金利低い |
| 信用保証協会付き融資 | 銀行・信金 | 約2,000万円 | 保証人不要。審査やや長い |
| ビジネスローン | 民間金融機関 | 〜500万円 | スピード重視。ただし金利高 |
| クラウドファンディング+融資 | 民間+公庫 | 変動 | 資金実績を見せると通りやすい |
第7章:個人事業主の“よくある落とし穴”
- 通帳に“見せ金”を入れる(審査で即バレ)
- 見積書が曖昧で資金用途が不明
- 税務申告前の黒字証明がない
- 家計と事業資金を分けていない
👉 銀行は“履歴の整合性”を見ています。
見せ金よりも、コツコツ積み上げた実績の通帳が最強の信用資料です。
第8章:個人事業主でも「信用を作る」3つの方法
- 事業専用口座を作る
→ 履歴が明確になり、資金の流れを説明しやすくなる。 - 会計ソフトで毎月記帳
→ freeeやマネーフォワードを使えば、公庫の面談で数字の整合性を即提示可能。 - 商工会議所や創業支援機関の相談実績を残す
→ 第三者関与があるだけで信頼が1段階上がる。
第9章:審査を通す“3つのポイント”
- 数字を自分の言葉で説明できるか?
- 資金の流れが明確か?(通帳・見積書)
- 経験や実績を証拠として提出できるか?
私は過去、1000件以上の融資面談を担当してきましたが、最終的に通った人の共通点は「資料が整理されていた」こと。
完璧でなくても、「丁寧に説明できる姿勢」が最大の武器になります。
第10章:法人化を急がずに成功する戦略
- 個人名義で公庫融資を受ける(実績づくり)
- 開業後1〜2年で黒字決算 → 法人化
- 法人設立後、追加融資で拡大
👉 この順番を守ると、2回目以降の融資がスムーズ。
初回から“法人化+初申請”を狙うと、審査リスクが高くなります。
結論
法人化していなくても、個人事業主として融資を受けることは十分可能です。
ただし、その前提となるのは「信用を見える化する準備力」。
通帳の積立履歴、明確な事業計画、経験の裏付け――これらが揃えば、公庫も保証協会もあなたを信頼します。
融資は“法人か個人か”の問題ではありません。
あなたがどれだけ真剣に未来を描いているか。
その誠実さと覚悟こそが、数字以上に銀行員の心を動かすのです。


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