銀行に融資を相談したら『信用保証協会を使いましょう』と言われた。
神奈川県川崎市の支店で働いていたある日、50代の町工場経営者が「保証人を頼める人がいない」とため息をついた瞬間の沈黙――あの場面を忘れることはできません。
この記事では、現場での失敗談や数字データを交えながら、信用保証協会の仕組みと本当の役割を解き明かします。
安堵を生む「保証人不要」の仕組み
信用保証協会は、中小企業や個人事業主が融資を受けやすくするために存在する公的機関です。
実務で見た流れ
- 事業者が銀行へ融資を申請
- 銀行が信用保証協会に保証を依頼
- 協会が審査を行い、承認されれば銀行が融資実行
- 万一返済不能になれば、協会が銀行に立て替え返済(代位弁済)
ただし誤解してはいけません。代位弁済が実行されても借金が消えるわけではなく、今度は保証協会が銀行に変わって事業者に返済を求めてくるのです。
見落としがちな「保証料」というコスト
保証協会を利用すると必ず「保証料」が発生します。
数字で見る保証料
2025年、化学薬品卸売業のケースを担当しました。融資1,000万円、返済7年、保証料率0.68%。計算式は以下の通りです。
- 計算方法:融資額 × 保証料率×計算期間(借入月数)/12×分割係数(返済が分割返済の場合)
借入期間7年、2000万円 借入した場合 - 2,000万円 × 0.68%×84/12×0.550 = 523,600円
分割係数表 - 2回ー6回 0.70
- 7回−12回 0.65
- 13回ー24回 0.60
- 25回ー 0.55
「金利以外にこんな負担があるのか」と驚く経営者も少なくありません。とはいえ、保証人を探す苦労や個人資産を担保に入れるリスクを考えれば、これは必要な保険料といえるでしょう。
苦い経験:事業計画書を軽視した失敗
保証協会は、返済能力以上に「事業計画の実現性」を厳しく見ます。
コロナ禍の6年前、私はネイルサロン業の創業案件を担当しました。起業者本人の作成した計画書をそのまま保証協会に提出。裏付けを示さなかった結果、不承認。
その後、半径1kmの人口統計を基に「世帯数 × 来店率 × 単価」で売上を算出し、再提出したところ500万円の保証が承認されました。
👉 教訓:計画書はストーリーと数字の両方が必要。感覚的な予測では審査は通りません。
誤解と批判:「保証協会は借金を増やすだけ?」
一部の経営者は「保証協会を使っても借金が膨らむだけ」と批判します。
確かに資金繰りが悪化している状態で追加融資を受ければ、返済負担が増えるのは事実です。
しかし、私の見解は違います。
- 借入はあくまで“道具”
- 販路拡大や設備投資に充てれば未来の収益源となる
- 借りた資金を「攻めの投資」に変える計画があるかどうかが分岐点
保証協会は借金を増やす存在ではなく「資金調達の扉を開く存在」と捉えるべきでしょう。
審査で見られる具体的な視点
1. 自己資金の割合
借入希望額の1〜2割を自己資金で用意しているか。
実際に、私が担当した飲食業の案件では、希望額500万円に対して自己資金30万円しかなく却下されました。
2. 信用情報
クレジットカード延滞やローン事故があれば、ほぼ不承認(表面上は個人の信用情報機関照会はしていないことになっていますが)。
3. 返済能力
本業収入+副業収入を合算して評価される場合もあります。
4. 計画の根拠
「来店数=周辺人口 × 想定来店率」で試算するなど、具体的な数値が必須です。
活用シーン別の成功事例
- 創業時の資金確保
副業カフェを法人化し、1,200万円を保証協会付きで調達。 - 急成長による資金不足
ネット通販で売上倍増、仕入資金2,000万円を保証付きで確保。 - 外部環境の変化
コロナ禍で観光業の売上が激減。セーフティネット保証で延命。
いずれのケースも「保証協会を利用しなければ倒産していた」と経営者は語りました。
結論
信用保証協会は、中小企業や起業家にとって「最後の砦」であり「最初の味方」です。保証料の負担や二重審査は確かに面倒ですが、それを乗り越えるだけの価値があります。
私が20年以上の現場で学んだのは「借入の有無が成功を決めるのではなく、借入をどう使うかが未来を分ける」という事実でした。
どうか恐れず、しかし安易に飛びつかず、準備を整えてから利用してください。
信用保証協会は、あなたの挑戦を後押しするために存在しているのです。
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