「創業時の資金をどう確保するか?」
多くの起業家や副業から事業化を考える人がぶつかる壁です。銀行は実績のない事業に消極的ですが、そこで頼りになるのが 日本政策金融公庫(JFC) です。
私自身、銀行員として20年以上、公庫と並走して数百件以上の企業を支援してきました。この記事では、公庫の背景・現状・役割を踏まえ、スムーズに借入を受けるための実務的な視点を解説します。
歴史と存在背景 ― なぜ公庫は生まれたのか
日本政策金融公庫は2008年10月に設立されました。
成立の経緯
それ以前は「国民生活金融公庫」「農林漁業金融公庫」「中小企業金融公庫」などが存在し、各分野ごとに融資を担っていました。
しかし、行政の効率化と中小企業支援の一本化を目的に統合され、株式会社日本政策金融公庫として誕生しました。
背景にある国の狙い
- 民間金融機関が貸し渋りしがちな「創業期」や「小規模事業者」へ資金を供給
- 経済危機や災害など、非常時に迅速に資金を回す「安全弁」としての機能
- 地域経済や雇用維持の基盤を守ること
つまり、公庫は「民間銀行では拾いきれない領域を支援する存在」として設立されたのです。
日本政策金融公庫の現状と役割
現状の規模
- 融資残高:約20兆円前後(2023年度決算より)
- 年間の新規融資件数:100万件超
- 創業融資全体のシェア:7割以上
主な役割
- 創業支援 → 無担保・無保証の「新創業融資制度」で創業資金を提供
- 小規模事業者の支援 → 運転資金や設備資金の少額融資に対応
- 危機対応 → コロナ禍・自然災害など緊急時の特別融資枠を設定
- 政策目的の実現 → 農林水産業・地域活性化・女性や若者の起業促進
監督官庁と組織の仕組み
- 監督官庁:財務省および内閣府(政策金融担当)
- 出資:政府100%出資の特殊会社
- 形態:株式会社形態を取りつつ、株主は国のみ
この形態は「株式会社の柔軟性」と「政府系金融機関の信頼性」を兼ね備えています。
公庫と銀行の違い
項目 | 日本政策金融公庫 | 民間銀行 |
---|---|---|
対象 | 創業・小規模事業者 | 実績のある事業者 |
担保・保証人 | 不要の制度あり | 信用保証協会 |
融資スピード | 申請から2〜3週間 | 数日〜数週間 |
金利 | 1〜2%台が中心 | 変動幅大、信用力次第 |
目的 | 政策支援 | 収益性重視 |
実際、私も過去には「創業期は公庫で資金調達、その後の成長は銀行融資」という二段構えを勧めていました。
よく利用される代表的な制度
新創業融資制度
- 無担保・無保証人
- 最大融資額:3,000万円
- 自己資金要件:総投資額の1/10以上
- 対象:創業または開業2年以内
女性・若者/シニア起業家支援資金
- 女性、35歳以下または55歳以上が対象
- 金利優遇あり
中小企業経営力強化資金
- 認定支援機関の支援を受けて申請
- 計画性が評価されやすく、融資実行率が高い
スムーズに借入を受けるための実務的ポイント
私が融資担当として繰り返し見てきた「成功する経営者の共通点」は次の3つです。
1. 自己資金の準備
「全額借りよう」と考える人は審査で不利です。
最低でも必要資金の1〜2割は自己資金を準備してください。
2. 創業計画書の精度
- 売上根拠は「単価 × 顧客数」で数値化
- 経費は過小見積もりせず現実的に
- 市場調査データを引用して信頼性を高める
かつて私が担当した美容室の創業案件では、「周辺人口1万人 × 来店率5% × 単価4,000円=月商200万円」という算式を提示し、説得力を得て融資承認に至りました。
3. 面談対策
公庫担当者は「人物」を重視します。
- 質問に対して即答できる準備
- 副業経験や過去の実績を具体的に話す
- 「なぜこの事業をやるのか」を熱意を持って説明
銀行員としての失敗談と教訓
一度、私は「計画書を銀行側で作りすぎてしまった」ために失敗したことがあります。
経営者自身が事業内容を理解していないと、面談で質問に答えられず不承認に終わったのです。
👉 教訓:計画書は“自分の言葉”で作り、借りる本人が語れる状態にすること。
公庫を使うべき人と使うべきでない人
使うべき人
- 副業から本業化を目指す人
- 創業資金を確保したい起業家
- 成長のために設備投資したい小規模事業者
使うべきでない人
- 自己資金ゼロで「全部借りたい」と考える人
- 計画の根拠がなく「なんとかなる」と思っている人
- 返済原資を見込めない人
まとめ
日本政策金融公庫は、国が100%出資する「創業と中小企業の味方」です。
その背景には「民間銀行が貸しにくい領域を支援する」という政策目的があります。
借入をスムーズに進めるためには、自己資金の準備・精度の高い創業計画書・誠実な面談対応が不可欠です。
20年以上の現場経験から言えるのは「数字と熱意が揃った人は必ず融資を通せる」ということ。
未来を変えるのは資金調達そのものではなく、それをどう活かすかです。日本政策金融公庫を上手に活用し、あなたの事業の第一歩を確実に踏み出してください。
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