「開業届って、いつ出せばいいんですか?」
「開業届って、いつ出せばいいんですか?」
銀行勤務時代、創業相談の場で最も多かった質問の一つです。
早く出せば補助金や融資に有利だと聞く一方、タイミングを間違えると税金や社会保険で損をすることもあります。
私はこれまで2,000件以上の創業支援を行ってきましたが、“開業届の出しどき”を誤って資金繰りが狂った例を何度も見てきました。
この記事では、副業から本業へシフトするあなたが損せず得をする「開業届の最適タイミング」を、実務と数字でわかりやすく解説します。
本論
第1章:そもそも開業届とは ― 税務署に提出する“起業の第一歩”
開業届とは、個人事業主として事業を開始したことを国(税務署)に知らせる書類です。
正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」。
開業から1ヶ月以内に提出することが義務付けられています(所得税法第229条)。
開業届の提出先と方法
- 提出先:所轄の税務署
- 提出方法:窓口/郵送/e-Tax(電子申請)
- 必要書類:マイナンバーカード・印鑑・開業届1枚
💡ワンポイント
e-Taxを使うと即日受付が可能。副業の人でも会社に通知がいくことはありません。
第2章:副業段階で開業届を出すメリット・デメリット
メリット
1️⃣ 経費が計上できる
自宅の通信費・光熱費・パソコン・書籍などを按分して経費化でき、節税効果が高い。
2️⃣ 屋号付き口座が開ける
屋号名義の銀行口座が作れるため、信頼度が上がる。
→特に日本政策金融公庫の融資審査でプラス要素になります。
3️⃣ 補助金・助成金に申請できる
開業届を出していないと、創業関連の補助金は申請不可。
デメリット
1️⃣ 住民税・国保の負担増
会社員の給与に加え、事業所得が課税対象になる。
2️⃣ 社会保険の扱い
勤務先が副業禁止の場合、発覚リスクもゼロではない。
3️⃣ 赤字でも確定申告が必要
青色申告を選んだ場合、帳簿付けの手間が発生。
第3章:開業届を出す“ベストタイミング”はいつ
タイミング① 副業の売上が月5万円を超えたら
経費を差し引いても黒字が出始めた時点で提出を検討すべき。
理由は、売上が安定し始めたタイミングで経費処理を行うと、所得税を節税できるからです。
タイミング② 開業資金を融資で調達したい時
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は、開業届がなくても申請可能。
ただし面談時には「提出予定日」や「屋号」を聞かれます。
審査通過後の融資実行までに開業届が出されていることが条件になるため、審査申込の直前に提出するのがベスト。
タイミング③ 会社を退職する1〜2ヶ月前
退職直後に提出すると、社会保険や住民税の切り替えがスムーズ。
また、確定申告時の“収入区分”を明確に分けられるため、後々の税務調査にも有利です。
第4章:現場で見た“タイミングを誤った失敗例”
失敗例①:早く出しすぎて補助金を逃したケース
東京都内で副業カフェを開こうとした男性。
開業届を出した翌月に「創業補助金」が募集開始。
既に“開業済”扱いのため対象外となり、最大200万円のチャンスを失いました。
→補助金は「開業前」を対象とする制度が多いため、出す時期は要注意。
失敗例②:遅すぎて融資に間に合わなかったケース
開業届を後回しにしていた女性(ネイルサロン)。
公庫面談で「開業の意思が曖昧」と判断され、審査が長引いた結果、オープン予定日に間に合わず。
→開業届=“本気度の証明”。出さないままだと、融資のタイミングを逃します。
第5章:融資・補助金・税務の“三方向”で見る最適スケジュール
| 項目 | 開業届を出すタイミング | 理由 |
| 融資申請 | 審査申込の直前 | 公庫審査時の書類確認に必要 |
| 補助金申請 | 申請前には未提出 | 「開業前」対象制度を利用可能にするため |
| 税務(確定申告) | 年度内ならいつでもOK | 青色申告承認申請とセットで提出推奨 |
💡実務アドバイス
開業届と同時に「青色申告承認申請書」も提出すると、最大65万円の控除が使えます。
第6章:数字で見る ― 開業届提出による税金の変化
ケースシミュレーション
- 年収400万円の会社員
- 副業利益:年間60万円
- 開業届を出した場合:青色申告控除65万円
所得税計算例:
副業利益60万円 − 青色控除65万円 = 0円(非課税)
👉 節税効果抜群。逆に開業届を出さなければ、60万円が課税対象になります。
第7章:副業サラリーマンが安心して出すための実務チェック
✅ 勤務先就業規則を確認(副業禁止条項の有無)
✅ 住民税を「自分で納付」に設定(給与天引き防止)
✅ 屋号付き口座を開設(資金の流れを明確化)
✅ 会計ソフト登録(freee/マネーフォワード推奨)
→ 特に「住民税の自分納付」は、会社バレ防止の鉄則です。
第8章:開業届提出で信用が生まれる瞬間
日本政策金融公庫・保証協会の担当者は、必ず“開業届提出日”をチェックします。
それは「いつ本気になったか」を見る指標だからです。
また、開業届があることで以下の効果も:
- 取引先との契約がスムーズ
- 会計事務所・税理士との契約が容易
- 銀行口座開設が正式に可能
👉 書類1枚ですが、信用の第一歩です。
第9章:実務担当者の視点 ― 私が見てきた“通る人・落ちる人”
通る人
- 開業届提出後すぐに屋号口座・帳簿・SNS発信を始める
- 「3ヶ月後に法人化予定」と明確なステップがある
→ 一貫性があり、信用スコアが高い。
落ちる人
- 書類だけ提出し、事業実態がない
- 通帳に“見せ金”を入れて帳尻合わせ
→ 銀行員は“通帳の呼吸”で全て見抜きます。
第10章:副業から本業へ ― 成功するための最終チェックリスト
| チェック項目 | 状況 | コメント |
| 副業の売上が月5万円を超えた | ☐ | 税務的に開業のサイン |
| 経費を明確に分けている | ☐ | 家計との区分が重要 |
| 開業届と青色申告申請を提出 | ☐ | 最大65万円控除を確保 |
| 融資・補助金の計画を立てた | ☐ | 出す順序で大きく差が出る |
| 法人化の時期をシミュレーション | ☐ | 将来の節税対策も視野に |
結論
開業届は「出すか・出さないか」ではなく、「いつ出すか」で結果が大きく変わります。
副業から本業へ移る時、最も損をしないのは――
「売上が安定し始めた段階」かつ「補助金・融資の直前」。
焦らず、順序立てて行動すれば、税金も資金調達も味方につけられます。
開業届は“スタートライン”ではなく、“信用を作る最初の証拠”。
あなたの起業物語は、この1枚の紙から静かに始まるのです。


コメント